正解のない授業~国際バカロレアの探究学習を知ろう~

最近特に「探究学習」というワードが教育熱心な保護者の間で人気であることは、インターナショナルスクールや、日本の多くの新設校で「探究学習」を打ち出していることからも分かります。ところが実際はどのような授業が行われているのか、見えづらいのが実情です。

この記事では、国際バカロレアのPYP(Primary Years Programme)という初等教育プログラムで、実際に娘が経験した授業内容をもとに、探究学習の様子をお伝えしたいと思います。

探究学習とは

「探究学習」とは、教師が生徒に対して一方向的に内容を伝え、生徒はそれを聞くという受動的な授業とは異なり、生徒自らがテーマに対して情報を収集・整理・分析したりしながら進めていく学習方法のことです。PBL(Project Based Leaning)などもそうでしょう。

これらの学習には、問いに対して自分なりの解決策を見出していくことが求められます。というのも、そこには絶対にこれが正解という答えはないことが普通だからです。

国際バカロレアの探究学習

「国際バカロレアの授業、あれは楽しかった!またやりたいって思う」。現在中学生で、小学生のときに国際バカロレアのPYPの授業を体験した娘は今もそう言っています。

国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)は、スイスに本部を置く国際バカロレア機構が提供する教育プログラムで、国内外の多くのインターナショナルスクールが採用しています。親の仕事の都合などで、国を移動しながら学ぶ児童がどの国にいても同じ教育内容とシステムで教育を受けて、大学入学資格を得られるようにと始まりました。

日本でも、文部科学省は国際バカロレア(IB)教育の普及を目指しています。インターナショナルスクールだけでなく、日本の学校でも取り入れられ、国際バカロレア認定校・候補校は増えています。

参照:文部科学省のサイトより「IBとは」・「認定校・候補校」

国際バカロレアのPYPの授業では、教師はファシリテーターといった役割です。授業のテーマを設定し、必要な情報や資料、動画などを提供しますが、生徒自らがリサーチしてまとめ、最後には学んだ内容を発表します。

これらの作業を個人で行うこともあれば、クラスメイトと共同しながらグループワークで行うこともあります。教師はその過程を見守り、必要であればいつでも適切なサポートします。

探究学習で政治を学ぶとこうなる

探究学習で政治について学ぶとどのような授業になるのでしょうか?娘が6年生の時に体験した授業の様子についてお伝えしたいと思います。

最初はアメリカ、イギリス、イタリア、日本などの各国の政治の仕組みについて学んでいきました。例えば、アメリカには共和党と民主党という政党があり、選挙で勝った政党の候補者が大統領になるというような内容です。共和党が象、民主党はロバがシンボルマークになっていることなども教えてもらったそうです。

政党を立ち上げ、選挙を行う

一通り政治や政党の仕組みについて学んだあと、今度は生徒が実際に政党を立ち上げ、選挙を行うことになりました。

有権者に投票してもらい選挙で勝つには、各政党の公約が重要になります。クラス内でいくつかの政党が立ち上がり、どんな公約を掲げるのかという話し合いが始まりました。娘はクラスメイトと3人の政党を立ち上げたそうです。

面白いのは、政党の人数なども特に決まっていないので、1人で政党を立ち上げる生徒もいるし、何でもアリなところです。

各政党の思惑

党員は自作の胸章をつけて選挙活動やプレゼンを行う

この時の有権者は教師と2学年下の4年生のクラスの生徒でした。娘の政党は『TEAL Party』という政党名で、「Education(教育)・Environment(環境)Equality(平等)」という公約を掲げました。

メインの有権者である4年生の票を狙ってか、Entertainment(娯楽)をメインの施策として掲げ、「Netflix Free」という公約を打ち出した政党もありました。「そんなのダメでしょう」と否定する先生はいません。校長先生も「Netflix Freeなんてイイね」と言っていたそうです。

娘はそんな様子を見て、どちらかというと真面目な自分達の政党よりも「Netflix Free」を掲げる政党に票が流れてしまうのではないかと心配していました。

選挙演説と投票結果

選挙前日に「明日選挙なんだよね」と娘が話していたので、私も気になっていました。その日は各政党が有権者の前でプレゼンを行ったあと、投票が行われたそうです。結果はどうだったのでしょうか?

学校から帰ってきた娘は「勝ったー!」と喜んでいました。

Netflix Freeを掲げた政党と娘の政党との争いとなり、最後の1票を残して同票になったそうです。全員が見守る中、4年生の生徒が投票した結果、1票差で娘の政党が勝つというドラマティックな展開になったと聞き、授業での選挙とはいえ盛り上がったようです。

探究学習のメリット

このような探究学習が求められている背景には、『学校で教わったことを暗記してテストで良い点をとる』という従来の方法では、多様化する社会に子ども達が対応できなくなるのではという保護者の不安を反映しているように思います。

探究学習には、いつも正解がある訳ではありません。今回の授業でいえば、親の視点で考えると、娘の政党が打ち出した公約が多くの生徒に受け入れられ、勝利したことは喜ばしいことです。ですが、もし誰かが1票を「Netflix Free」という公約を掲げた党に投票していたら負けていた訳です。

実際の選挙でも、さすがにNetflix Freeの公約は今のところありませんが、信念よりも票獲得を狙って国民が喜びそうな政策を打ち出すことはあるでしょう。小学生の授業に、大人でもどれが正解かと言い切れない内容が含まれています。

探究授業では、自分達で考え、調べてまとめるという作業が多くありますし、深く探求することで理解しやすいので、一度学んだ内容は忘れないと娘は言っていました。

このような授業を経験していくうちに、アメリカの大統領選などがニュースで放映されると観るようになり、視野が広がったと思います。

まとめ

国際バカロレアで行われている探究学習はこのように、生徒自らが考え、自分なりの答えを導き出していくという体験型の学習です。正解がないこともあるのだということを、自ら学んでいきます。

今回ご紹介したような政治という少し難しい内容でも、実際に選挙活動を行うことで自分ごととして捉えられるようになります。

またプレゼン資料をまとめて発表するという体験を繰り返し行うことで、人前で発表することに慣れていきます。こうした日々の学びと経験の積み重ねは、確実に子ども達の成長の糧になっていると感じます。

国際教育ライター

羽木